一般用医薬品(OTC)のインターネット販売の規制緩和が今回見送られました。
理由は震災の影響で各省庁の調整がつかなかったからとか。
一般用医薬品のネット販売に関して、主に議論されている内容は、
利便性と安全性。
今日はこの安全性について着目してみたいと思います。
この話題において、議論の中心はもっぱら、
「医薬品の販売の基本は対面販売である。適切な情報提供で消費者の健康被害を防げる」
といった部分ばかりが強調されています。
だから、
「店頭で医薬品を購入しても大して説明なんてしてないじゃん」
とか、
「ネットでも文章で適切に医薬品の情報は提供できる」
とか、
そんな風に反論されてしまうわけです。
でも、この医薬品のネット販売の危険性の本質はそこではないと思います。
みなさん、インターネットで手に入る医薬品が、薬局薬店で購入する場合と同じものが手に入ることを前提に話をすすめていませんか。
偽造医薬品(Counterfeit Medicine)をご存知ですか。
偽造医薬品とは、本物の製造者以外の誰かが、本物の薬に似せて作ったもので、有効成分が異なるものや有効成分の量が少なかったり多すぎたり、偽者の容器に入っていたり、模造した表示を貼り付けたものなどです。
例えば、有名な頭痛薬のパッケージに入っていて、見た目も全く本物のような白い錠剤。
しかし実際成分を調べてみたら、デンプンしか入ってなかった。。。
といったような。
このニセモノの薬によって、直るはずの病気が治らなかったり、有効成分が多すぎて亡くなる人や、有害成分によって障害をもたらされた人などがいます。
偽造医薬品の流通は、日本を含む先進国では1%以下です。
これは、日本では医薬品の流通ルートが限られていて、誰でも自由に参入できる状態ではないからです。
しかし、インターネット上ではどうでしょう。
ある種の医薬品ではネット上で流通する50%以上の薬がニセモノである、というデータも上がっています。
また、インターネット上で、住所を明らかにしていない不法サイトから流通している医薬品の50%以上が偽造医薬品というWHOの調査もあります。
ED治療薬や、発毛・育毛促進剤、妊娠検査薬や排卵日検査薬、避妊用ピル、性感染症治療薬などは、人には知られたくない、対面販売で買いにくい商品だということは十分理解できます。
また、離島や山間部その他医療機関や薬局薬店から遠い地域に住まわれている方が毎回何時間もかけて薬を買いに行くのは大変なことだと思います。
だから、利便性を向上することは重要です。
医療は誰にでも平等に与えられるべきだからです。
しかしながら、医薬品の物流と一般物販を同様に考えてはいけません。
医薬品は販売して終わりではありません。
副作用や有害作用が見られたときに、それに対処しなければなりません。
そのときに、その薬は誰が販売したのか、いつ、どこで誰が作ったものなのか、成分は何なのか
知る必要があります。
インターネット上では、簡単に、日本に拠点があるように見せかけて、実は海外から商品を送る、といったことができてしまいます。
問題が発覚してから、出所を追跡することも難しい。
先日、放射線の影響を緩和する治療薬だと謳って、数日で何千万も儲けた人がいましたね。
そういうことが簡単にできてしまうのです。
年末年始にかけて、通販で頼んだおせち料理が写真とは全然違うものだった、という事件がありましたね。
これが薬だったらどうでしょう。
注文した薬と違うものが届いた。。。見た目ではわからなかったから飲んじゃった。。。
恐ろしくないですか。
消費者が、ネット上で、本当に信頼できる販売者か否か、個人で判断することは非常に難しい。
仮に規制を緩和するならば、本当に、正規の販売ルートで医薬品を扱っている業者からしか、消費者が購入できないような制度にしなければならない。
繰り返しになりますが、
便利なものを利用することは悪いことではありません。むしろ、それでアクセスが向上するなら素晴らしい。
ただ、慎重に、検討しなければならない。
なぜなら命は取り返しがつかないから。